制作の舞台裏
【制作の舞台裏 第5回】AIに世界観のBGMを作らせる
映像の印象は、実は音楽で大きく決まる。私たちは作曲AIを使い、ドラマの世界観に合うBGMを9曲つくった。制作にかかったのは1日である。
ただし、最初の1曲で全員が固まった。インストゥルメンタル(歌なし)で頼んだはずの曲に、なぜか歌声が入っていたのである。
「歌わないで」と書いたら歌い出した
使ったのは Suno という作曲AIだ。歌詞欄と、曲調を書く欄が分かれている。私たちは歌なしの曲がほしかったので、歌詞欄に [instrumental] と書いた。「これはインスト曲です」という意味のつもりだった。
出てきた曲では、その [instrumental] という言葉がそのまま歌われていた。
AIから見れば当然の動作である。歌詞欄に文字が入っていれば、それは歌詞だ。「これは歌詞ではない」という私たちの意図は、どこにも書かれていない。
インストゥルメンタル曲は、歌詞欄を完全に空欄にする。曲の説明は曲調欄にだけ書く。
この1行を守るだけで、以後この事故は起きていない。AIに「〜しない」を伝えたいときは、書くのではなく空にするほうが確実な場面がある。
やることは「場面の気持ちを言葉にする」だけ

作曲AIに渡すのは、楽器名やジャンルではない。その場面がどんな気持ちの時間なのかである。実際に使った指示を並べるとこうなる。
BGM-A 空白の夜 piano, uncertain, introspective BGM-B 家族の食卓 warm acoustic, family, gentle BGM-C 二十五年前の記憶 nostalgic, memory, bittersweet BGM-D 博多の夜の二人 jazz, acoustic guitar, intimate, warm, late night, nostalgic BGM-E 薬院の雨 melancholic strings, cinematic, heartbreak, acoustic guitar, rain
「piano, uncertain, introspective(ピアノ、不確か、内省的)」——これだけである。楽譜の知識は要らない。必要なのは、その場面を言葉にする力だ。
逆に言えば、場面の気持ちを自分で言語化できなければ、AIにも作れない。ここは人間の仕事として残った。
