【制作の舞台裏 第3回】AIは平気で嘘をつく ― 失敗から生まれた“絶対ルール”集
生成AIだけで作った連続ドラマ「空白を埋める者」。全121シーンの制作で、実際に本編へ使ったカット画像は677枚だった。その裏で、1,652枚をボツにしている。不採用率は71%。採用1枚あたり2.4枚が没になった計算だ。
ボツの多くは、AIが指示に逆らったからではない。むしろ指示どおりに描いた結果だった。今回は実際に起きた事故を1件そのまま公開し、そこから何を決めたかをお伝えする。
眼鏡が消え、別人になった——2026年5月10日
第五章のカット「6-7B」。オフィスで健一と結衣が向き合う、わずか数秒の場面である。

中央の画像では、健一の眼鏡が消えている。右の画像では、結衣の髪が長く色も変わり、顔立ちまで別人になった。同じ人物を、同じ場面で描かせたはずのものである。
視聴者はこの手の違いに敏感だ。前のカットと服装や髪型が違えば、物語への集中は途切れる。「なんとなく変だ」という違和感は、作品全体の信頼を静かに削っていく。
厄介なのは、1枚ずつ見れば、どれも破綻していないことだ。中央の画像も右の画像も、単体では十分きれいに仕上がっている。並べて初めて事故だと分かる。AIの失敗はこの形を取ることが多い。
原因は「親切に書き足したこと」だった
調べてみると、原因は私たちの側にあった。プロンプト(AIへの指示文)に、人物の見た目を文章で書き添えていたのである。
- 健一の説明に「眼鏡なし」と誤記していた → 眼鏡が消えた
- 結衣の説明に「胸下〜腰までの長髪・赤茶色」と書き足していた → 髪も顔も別人になった
AIは、書かれたとおりに描いただけだ。ここに落とし穴がある。外見を文章で説明するほど、AIはその文章に忠実な“別の人”を描く。「よかれと思って詳しく書く」ことが、そのまま事故の原因になっていた。
人間の相手なら、これは起こらない。「いつもの健一さんで」と言えば通じるからだ。AIには“いつもの”がない。文章で渡した情報だけが手がかりになる。だから説明を足すほど、渡した文章の中の小さな誤りが、そのまま絵になって出てくる。
決めたルール——「顔は文章で説明しない」
この事故を受けて、私たちは1行のルールを追加した。
キャラクター描画は参照画像で表現する。プロンプト本文で視覚特徴を再記述しない。
人物の見た目は、言葉ではなく前のカットの画像そのものを見せて引き継がせる。この一点を変えてから、同じ種類の別人化は止まった。
AIに何かを頼むとき、私たちはつい説明を足したくなる。だが説明を足すほど正確になるとは限らない。「見せられるものは、説明せずに見せる」ほうが確実な場面がある。これは映像に限った話ではない。
ボツを消さない——ファイル名に“なぜダメか”を書く
もう1つ、この事故から生まれた習慣がある。失敗した画像を消さないことだ。
私たちは不採用フォルダに、理由を書いたファイル名のまま残している。
06-07B_start_20260510_153425_眼鏡なし_rejected.jpg 06-07B_start_20260510_143748_結衣別人_rejected.jpg
カット名・日時・なぜダメだったかが、ファイル名を見ただけで分かる。この「6-7B」というカット1つで、不採用は11枚あった。
消していれば、ただの失敗で終わっていた。残したことで、「眼鏡が消えた事故」は事故ログに記録され、ルールの根拠になった。現在このログには13件の事故が並んでいる。ルールを先に完璧に作ることはできない。事故のたびに1行ずつ足すしかない。
そして、私たちが記録した13件は、大きく4つの型に分かれていた。別人化はそのうちの1つにすぎない。残りの3つは、より気づきにくく、後工程で発覚するぶん損害も大きかった。
